相坂優歌1stライブ「屋上の真ん中 で君の心は青く香るまま」

相坂優歌さんの1stライブに行ってきた感想です。たぶんライブの話ほぼしてない。

 

※相坂さんのすべての発言は自分の記憶のみを頼りに書いており、メモなども取っていなかったため思い違いや勘違い、口調の違和感が多々あると思います。時系列も結構バラバラで途切れ途切れだったりもするので、そんなニュアンスの話をしてたんだなとー、ふんわり受け止めてくれるとうれしいです。よかったらぜひ曲も聴いてください。

 

 

 

「悲しい気持ちとかつらい気持ちって、誰もが思うことだと思うんですよ。表に出すと叩かれたりとか……メンヘラだとか言われたりもするけど、何がいけないんだろう?って思う」

「でもそうやって言う人たちこそ、きっと人一倍そういう気持ちになってるんですよ。悲しいとかつらいって気持ちがよくわかるから、それに敏感に反応してしまう。そう、私は思ったんですね。だから『無理すんな』と、『おまえもつらいんだな』って思うようになりました」

 

本編終了後のアンコールで、相坂さんはふいにそんなことを語り始めた。たぶん、クリープハイプの『大丈夫』のカバーを歌い終えたあとのMCだったと思う。

 

「夜道を歩いていたときに、急につらくなってしまったことがあって。その日もクリープハイプのアルバムをリピートしていたんですけど、そのとき『大丈夫』が流れてきて気付いたんです」

「誰かに、傍にいてほしかったんですね。『大丈夫』って言ってくれる誰かに」

 

ずっとμ'sを追い続け、そして今Aqoursを追いかけている私にとって、「弱音を吐かないこと」「悲しいことやつらいことがあってもそれを表に出さないこと」を努めて実践している人々が、いわゆる「大人」なんだろうと私は思っていた。たぶんそれは間違いじゃないし、精神的に自立している生き方があるべき姿なんだとも思う。当然みんな努力しているところをひけらかさないし、私たちに喜怒哀楽の喜と楽しか向けようとしない人もいたりして、とにかく楽しい面だけを見せようとする姿勢はすごくファン思いだと日々感じていた。そういった芸能面のプロ意識はもちろん相坂さんも備えているように思えるけど、それでも日々の出来事の中で何かに対してつらい、悲しいと思ってしまうことそれ自体にも共感しようとしてくれる相坂さんのスタンスは、私がずっと慣れ親しんできたμ's/Aqoursとはまた違った身近さがあったように感じた。 

 

 

 

「言葉って本当に強いから簡単なことで傷ついちゃうけど、でもだからこそ、誰かに『大丈夫』って言ってもらえると『なんとかなるか』って、『大丈夫』って思えるようになれると思うんです」

「もしかしたらみんなは『大丈夫』って言ってくれる人がいないって言うかもしれないけど、ここに1人います!」

 

おもむろにそう宣言し、「大丈夫!」と続けようと息を吸ったそのとき、何か思いついたような顔をした相坂さんは手に持ったマイクを自分の口から離し、叫んだ。

 

「大丈夫!大丈夫だよ!」

 

その声を耳にした瞬間、私の胸に言いようもなく溢れてきた気持ちがなんだったのか、今もよくわからない。

 

これまで披露されてきた歌声とはまったく違う、マイクを通さない素の肉声で私たちに向かって放たれた「大丈夫」という言葉は、「言葉って本当に強いから」という主張を裏付けるかのように強く、強く会場内に響き渡った。決して狭くはないZeppDiverCityの奥の奥まで、「後ろー!見えてるぞー!」「2階の民ー!見えてるから!」と何度も声を届けてきた相坂さんの、そこにいるすべての人に向けて自分の声帯だけで想いを伝えようとする姿に、日本最大級のライブハウスは水を打ったように静まり返っていた。私は何の根拠もなく、何が大丈夫なのかもわからないまま、ただポジティブな勇気が胸の中から湧いてくるような気がした。失敗した人間関係だとか、最近上手く行ってない仕事だとか、どんなに無意識下に追いやろうとしても、ライブのような非日常の中でもたまにふっと頭に浮かんでしまう不安な気持ちに一条の光が射したような感覚を覚えたこの瞬間は、今も確かに心に刻まれている。

 

 

 

「みんな生きてるだけで偉いと思うから、私はみんなのことを褒めます!だから、私のことも褒めてほしい」

「つらいことがあったらリトマス紙に送ってくれれば私が読むし。……あ、宣伝みたいになっちゃったね……お手紙とかでもいいから!そしたら私が読んで、『うん、大丈夫!』って言ってあげるから」

 

悲しいことやつらいことがあっても、みんなで「大丈夫」と言い合っていけば優しい世界になるんじゃないかと、「そうすれば平和じゃないですか」と語る相坂さんは、自分もその“みんな”のうちのひとりなんだと、孤独な仲間なんだと言うように、ひとりぼっちの私たちに向かって真摯に語り続けた。

 

ネガティブな気持ちは、重い感情だと思う。負のオーラだとか雰囲気が暗くなるだとか言われるように、その澱んだ空気はたやすく周囲に伝染してしまう。心に溜め込んだその感情を振り撒けば、自分だけじゃなく他人の気まで重くさせてしまう。だからきっと、人は胸から溢れる黒い気持ちに蓋をしようとする。そうしないと、自分の周りから誰もいなくなってしまうから。本当にひとりになってしまったら、今よりももっと苦しくなってしまうから。そういう扱いづらい、でも誰もが抱いて当たり前のネガティブな気持ちを、相坂さんはすべて受け止めようとしていた。目の前にいるみんなが自分のファンだとはいえ、ゆうに1000人を超える大所帯だ。様々な人たちが様々な悩みを抱えて、この日をともにして同じ場に立っていたと思う。一人ひとりからどんな苦しみが飛び出してくるかわからないし、それぞれの痛みが他人に耐えられるものなのかもわからない。それなのに、ぴんと張り詰めたその無数の感情たちに、相坂さんはたったひとりで「大丈夫だよ」と声をかけて、あたたかな希望を与えようとしてくれていた。

 

なんて愛に溢れた人なんだろうと、そう思った。

 

すすんで聞きたいような、楽しい話ではないだろう。他人の悲しみやつらさを受け止めることで、自分まで不必要にネガティブになってしまうかもしれない。それでも、たとえそうだとしても、自らその重みに耳を傾けて「大丈夫」という言葉で安らぎを宿そうとしてくれる相坂さんの心意気は、確かな愛だったように感じた。 

 

 

 

「私後ろ向きに見えますけどめっちゃ前向きだからね!ほんとに!だって……こんなに応援してくれる人がいるのに、何をネガティブになることがあるんだと」

 

PA卓がある後ろの座席にまで目を凝らして、相坂さんは感慨深げに会場内を見つめていた。

アンコール、最後の曲を歌う少し前だったと思う。

 

「普段言わないですけど、本当に皆さんのことを愛しています」

 

そう言って、相坂さんは深く頭を下げた。

 

そのとき、去年「ひかりを灯す会」で相坂さんが零した『みんなの中の一番になりたいなあと思う瞬間があったりするんですよ』という言葉が脳裏を過ぎった。

 

演者とファンは通常、一対多の構図を取る。1組の演者が居て、多くのファンがその人を応援する。演者を取り囲む人々の名は、「ファン」という特定の個人を指さない抽象的な名詞になる。だからファンは複数人居る状態が当然だけど、その真ん中に立つ演者はその人1人しかいない。ひとつの輝きに魅せられて、集まるたくさんの小さなひかり。でもこの一対多の認識は、演者の立場からすればきっと鏡写しなんだと思う。

 

演者にとって、ファンは私たちしかいない。

 

「ファン」と呼ばれる人たちがその演者以外にも他の誰かのファンを兼任していることはよくある話で、当の相坂さん自身もその例に漏れずいろんなアーティストさんを応援していると以前話していた。それはまったく悪いことではないし、様々な人に興味を持つことは至極当たり前のことだ。でも、演者にとってこれは心労の種に違いない。なぜなら、応援してくれるファンがいつ自分の目の前から姿を消してしまうか演者にはわからないし、いつ自分に関心を持たなくなってしまうかも決して知ることはできないからだ。だから、「いま応援していてくれる」ただそれだけで、演者はファンに感謝を伝え続ける。おそらく、自分自身の存在は自分のことを見てくれる「ファン」が多数興味を示している対象のうちのひとつに過ぎない、という自覚はどんな演者にも少なからずあるんだろうと思う。だから、相坂さんにも「みんなの中の一番になりたい」という欲求が生まれたのかもしれない。一番になるために、いつまでも自分のことを好きでいてもらうために、きっと演者は精一杯磨き上げたパフォーマンスを見せたり、日頃の想いを届けたりしてくれるんだろう。そうしてずっと自分のことを見ていてくれる人たちの声や姿を糧に、演者はさらに自身の芸や表現を突き詰めていく。

 

相坂さんは「ひかりを灯す会」でこうも言っていた。 

『そこにいてくださってるだけで、ほんとにいろんな意味を含めて助けていただいてますから』

 

私たちが今この場に集まっていることがどれだけ相坂さんの力になれているのかは全然わからなかったけど、それでも真正面から「愛しています」とストレートに伝えてくれたことで、相坂さんがきっと私には想像もつかないくらいにファンを大切に、大切に想っているだろうことを実感した。それだけで、もう答えは充分だったような気がした。

 

相坂さんが救われたという「大丈夫」という言葉はたぶん、それ自体に特別な魔法がかかっているわけじゃない。つらいことや悲しいことがあっても、それ自体は分かち合えずともお互いに話を聞いて声を掛け合えて、自分を気にかけてくれる他人が傍にいるんだ、と向けられた「大丈夫」の言葉でそのことに気づくことができる、ただそれだけのことなんだと思う。そうして少しだけでも上を向くことができれば、なんか良いことあるかもしれない、と未来を少し明るく感じられるんだろう。

 

 

 

「本当に最後の曲です」と、1stライブの最後に披露されたのはデビューシングルの『透明な夜空』。

 

“ねぇ 君がただ居るだけで わたしはうれしいの知ってた?”

“大丈夫だって思うのと おんなじくらい心配で”

 

紡がれる歌詞は、ライブ冒頭で聴いたときよりもずっとずっと、深く心に沁み渡っていった。ポジティブな気持ちだけじゃなくて、誰だって感じるネガティブな気持ちにもまっすぐに寄り添って、「大丈夫」と言ってくれる相坂さんの大きな愛と人生への哲学に、とても感銘を受けたライブだった。